話題の読み切り漫画「ルックバック」を読んでみました。しかし、「なんで漫画を描いたんだろ…」の場面から、はっきりとわからないような話に…。でも世間ではすごく評価されている。
これは多分、自分がなにか見落としているはず。
ということで情報を整理しながら考察をしてみたら、あの話は別世界軸でもいきすぎた妄想でもなく、とてつもなく現実的な物語だとわかりました。(あくまでわかったつもり)
そしてこれを書いているうちに、初見時には全くわからなかった「ルックバックがすごいと言われる理由」も見えてきました。
ここからはルックバックの完全なネタバレを含みます
無料で公開されているので、未読の方は、まず読んでみることをおすすめします。
※修正騒動についても最後に追記しました。
非常に長くなってしまったので、見出しに重要度をつけてみました。
★=最重要、要点がまとまったところ
◎=重要、まとめる前の要点
○=ふつう、整理した情報
△=重要でないところ
★「京本の部屋の前で漫画を描かなかった世界」は別の世界軸? 藤野の妄想?
最初に読んだ時、京本の通夜のシーンで。
藤野が京本の部屋の前に来て「自分があの時ここで漫画を描かなければ京本は死ななかった」と、自分を責めるシーン。
ここまでは「エネルギッシュな青春物語だなー」とするすると読み進めていたのが、この場面でやぶった4コマ漫画が、過去の京本の部屋に入り込んだシーンから、話がよくわからなくなってしまった。
最初に思ったのは「あれ? 別世界軸(平行世界)になった? ここでSF展開!?」でした。
でもなにか違う気がしてもう一度読み返すと、今度はあの場面が「藤野の妄想・空想」にも思えてきて、本格的に混乱することに…。
せっかくブログをやっているので、ここで情報を整理しながら、順を追って確認していきたいと思います。
◎ 順番に整理してみる
2004年(現実):小学校卒業の日
藤野、初めて京本の家に行く。
突然の訪問に驚いた京本は、物音を立ててしまう。人の気配に気づいた藤野は卒業証書を渡そうと上がり込む。
部屋の前の廊下に積まれたスケッチブックの山を見て、努力の差を見せつけられた藤野は、スケッチブックの上に4コマの台紙を見つけ、部屋から出てこない京本を煽るような4コマ漫画を描いてしまう。描き終えて冷静になったところで手からすべり落ち、ドアの下から部屋の中へ。
→京本が部屋から出るきっかけ、藤野が漫画家になるきっかけに。
2016年(現実):京本の通夜
藤野は京本の部屋の前の、暗い廊下に行く。
昔と変わらず廊下に積まれたスケッチブックの山の上には、藤野が描いている「シャークキック」の載っている漫画雑誌があった。
漫画雑誌には、”小学校卒業の日に藤野が描いた4コマ漫画”がしおりのように挟んであった。
それを見た藤野は「あの日、自分がこれを描かなかったら、京本は部屋から出なかった、死ななかった」と思ってしまう。
「漫画なんて描いても何も役に立たないのに…」と、その4コマ漫画をびりびりにやぶると、1コマ目の「出てこないで!」の部分だけが、ドアの下から京本の部屋へ入っていく。
ここから問題のよくわからないシーンへ。
◎ 別世界線?妄想?:「京本が無事な世界」
2004年(??):小学校卒業の日
突然、「出てこないで!」の1コマだけが部屋に入ってきて驚く京本。そこに藤野が訪ねてくるが、京本は先に漫画の切れ端に驚いていて、物音を立てない。
誰もいないと思った藤野は玄関から上がらずに卒業証書を置いて帰る。
→スケッチブックの山の上の4コマ台紙は白紙のまま、京本と藤野は出会うことのない人生へ。
→京本は単独で絵の勉強を続け、美術大学へ入学。
2016年1月10日(??)
作業を中断し休憩中の京本に、ツルハシ?を持って侵入してきた男が襲いかかる。
が、そこに藤野が颯爽と現れて男を蹴り飛ばし、京本は事なきを得る。この平行世界?妄想?の中の藤野は漫画家にならず、カラテの道に進んでいた。
この時の侵入者のセリフが、京都アニメーション放火殺人事件の容疑者と同じ主張だった。
8月2日追記
この時の男のセリフが「一部の人への差別と偏見を助長する」との意見が編集部に寄せられ、今は別のセリフに変わっています。詳しくは最後で。
警察も到着し男は逮捕される。事件は大事にならずに済んだ。
飛び蹴りの勢い余って足を怪我した藤野は救急車に乗せられていく。そこで京本は初めて藤野と言葉を交わす。京本は、藤野が学級新聞で4コマ漫画を描いていた憧れの同級生だと知る。
藤野は去り際に「最近また漫画描き始めたよ! 連載出来たらアシスタントになってね!」と元気よく伝えて運ばれていく。
京本は嬉しそうな様子で家に帰る。
部屋で丁寧に保存してあった藤野の4コマ漫画を見返すと、バインダーに白紙の4コマ台紙を見つける。おそらくこの世界軸か妄想世界では、小学校卒業の日に藤野が描かなかった台紙。
その台紙に、嬉しそうに漫画を描き始める。
描き終わった4コマ漫画を満足げに眺めていると、窓から風が入り、その4コマ漫画がドアの下から部屋の外へ飛ばされる。
2016年((現実?):京本の通夜
明るい世界はここまで。
京本の部屋の前で座り込んだ藤野が、ドア下から4コマ台紙が出てきたことに気づく。拾って見ると漫画が描かれていて、その内容に驚愕する。
それは「京本が殺された事件に、藤野自身が助けに入り、京本は無事助かった」という、藤野の願望のような展開が、明るいギャグ漫画調で描かれたもの。
タイトルは「背中を見て」。
それを見た藤野は誘われるように京本の部屋へ入る。
部屋の本棚には藤野の描く漫画「シャークキック」の単行本が置かれていて、感想ハガキもペンと一緒に机に置かれていた。
窓には4コマ漫画が何枚か貼ってあり、そこから1枚が剥がれ落ちた形跡があった。
ここまでが、別の世界線なのか、藤野の妄想なのかがわからないシーン。
★ 時系列順まとめ
- 2004年(現実):小学校卒業の日 京本の家
藤野、京本の部屋の前で白紙の4コマ台紙を見つける。それに漫画を描くと、手からすべってドア下から京本の部屋へ入ってしまう。
→京本、部屋から出る
→藤野、漫画家の道へ - 2016年(現実?):京本の通夜
藤野、京本の部屋の前で、小学校卒業の日に描いた4コマを見つける。
「京本を部屋から出したのは私だ…」
「これを描かなければ…」
と、びりびりにやぶる。やぶれた1コマ目がドア下から部屋の中へ入る。
「現実?」の理由は後述。 - 2004年(??):小学校卒業の日 京本の家
部屋で絵を書いている京本、突然やぶれた4コマの1コマ目が部屋へ入ってくる。驚いていると藤野が訪ねてくるが、京本に気づかず帰ってしまう。
→二人は出会わない人生へ
→藤野は漫画を辞めてカラテを続ける
→京本は一人で絵の道へ - 2016年(??):京本の通う美術大学
京本、男に襲われるもカラテを続けていた藤野に助けられる。京本は自分を助けてくれた人物が昔憧れた同級生だと知り、家に帰って嬉しそうに4コマ漫画を描く。
→ここで初めて二人は出会う
→京本は藤野に助けられて無事
→描いた4コマ漫画が風に飛ばされ、ドア下から廊下へ - 2016年(現実?):京本の通夜
京本の部屋の前ですわりこむ藤野が、ドアの前に4コマ漫画「背中を見て」があることに気づく。
◎ 京本の4コマ漫画「背中を見て」の役割
このあとの展開の前提として、考察してるうちにわかってきた4コマ漫画「背中を見て」の役割を。
それは京本の部屋の前で「京本が死んだのは自分のせいだ」「なんで漫画描いたんだろ…」と、自分を恨み漫画を否定し始めた藤野に、京本の部屋の中と、飾ってある”自分のサイン入りはんてん”を見せるためだと思われます。
京本の部屋にあるものと、サイン入りはんてんを見た藤野は、「漫画なんて描くもんじゃない」と言いながらも描き続けていた理由を思い出します。
ここまでが4コマ漫画「背中を見て」の持つ役割。
勝手な解釈ですが、この解釈の上であのシーンを見返してみました。
○ 整理の結果見えた3つの説
△ 却下した説① 暴説「全部妄想だった」説
あの世界は藤野の妄想だとは考えにくい。
なぜなら4コマ「背中を見て」が、”妄想の中で藤野に助けられた京本”が描いた、「危ない事件にあったけれど、あの藤野先生が助けてくれた」というその日の出来事を4コマ漫画にしたものならば、現実でドアの前にあるはずがない。
ただし、4コマ漫画「背中を見て」も藤野の妄想であるなら…
という前提で思いついた説。暴説なので読まずに飛ばして大丈夫です。
最後の、再起して漫画に向かう藤野のシーン。もし「背中を見て」までも妄想であったなら、それを窓に貼るこのシーンが非常にサイコなシーンになってしまいます。
妄想の中の幸せに過ごす京本がくれたメッセージで再起し、実際には何も描かれていない4コマを窓に貼って心の支えにする。
という、映画「サイコ」のような展開のお話だった…という説。
考えにくいですが、「背中を見て」が他のコマでは完全に白紙である点、窓に貼った4コマの内容が見えないようになっている点。これによって、この説もまったくないとは言えず…。
しかし「背中を見て」の役割や、「京本を部屋から出さなかったら死ななかった」というのが妄想の原点だと考えると、結局その妄想の中でも京本は一人で美大に進んで襲われているので違和感があります。
しかし藤野としては、小学校卒業の日に京本に会わなければ、雨の中踊りながら帰ることも、濡れた身体を拭きもせずに漫画を再び描き始めることもなく空手家への道を進んでいたかも…
→カラテの道へ進んだ自分なら「あの事件で京本を救えたかもしれない」という妄想だった?
しかし、窓に4コマを貼るシーンの気迫あふれる背中は、そんな妄想性をまったく感じさせません。
やはりこの説は無さそう。
○ 却下した説② SF作品だった?「別世界線(平行世界)」説
整理しているうちに、初見時の別世界線(平行世界)説から派生した、「 未来から過去、過去から未来へのメッセージ説 」 が浮上。
しかし映画「インターステラー」や「きみがぼくを見つけた日」のように、同時間軸上で4コマが行き来していたなら、藤野が座り込んだドアの向こうに、無事に事件を乗り切った京本が存在することになるので、これは完全に間違い。
ということは、やはり別世界軸説しかないのでは?
藤野がやぶった4コマが、ドアの下へ滑り込む。滑り込んだ先は12年前の京本が引きこもる部屋。
「出てこないで!」とだけ描かれたコマを見た京本は驚いて身構えてしまい、そこへ訪ねてきた藤野は物音がしないからそのまま帰り、二人は出会わないまま。
藤野が望む「あの漫画を描かなかった世界線」。それでも京本は美術大学へ進む。
漫画家にならずカラテを続けた藤野がランニング中、美大へ侵入する不審者を見つけて、襲われている京本を救い出す。
助けてくれた人物が子供の頃から憧れていた同級生と知った京本は、家に帰ると昔のバインダーを取り出して藤野の漫画を眺める。
バインダーに挟まっていた白紙のままの4コマ台紙に、今日起きた事件を、藤野の4コマ調に描いて満足げに見つめていると、風が吹いてドアの外へ飛んでいく。
ドアの外には、4コマをやぶったあと、自分を責めて苦しむ藤野が座り込んでいる。
そこに、「京本が亡くなった事件を、漫画家にならなかった自分が解決している4コマ漫画」がドアの下から突然現れる。
驚いてドアを開け京本の部屋に入ると、さっきやぶって部屋に滑り込んだ漫画の1コマはどこにもない。
ここは現実の京本の部屋で、京本が亡くなったのも現実。
しかしあの1コマは藤野の願いを乗せて過去に送られていて、そこから二人が出会わなかった平行世界へと分岐し…
- 別世界の京本は無事にあの事件を乗り切った
- その事件で京本を救ったのは、漫画家にならなかった自分だった
- 別世界でも京本は自分の4コマ漫画を好きでいてくれた
「あの漫画を描かなければ…」という願いのとおり、別世界では京本が死ぬことを最高の形で防ぐことができた。別世界から現れた4コマ漫画「背中を見て」はそれらを知るメッセージとなった。
その上でもう京本はいない現実の部屋を見る。
シャークキックの単行本とハガキ、あの日のはんてん。それらを見て、藤野は自分が漫画を描いていた理由を思い出し立ち上がる。
仕事場の窓に、無事に助かった京本が描いた「背中を見て」をお守りのように貼り、再び漫画へと向き合う。
はじめに読んだ時、私の頭の中で流れた物語はこれでした。
なぜこんな平行世界に見えたかといえば、私がそういう話をよく見ているせいもありますが、細かいヒントを見落としていると、この別世界軸でも物語が成立してしまうからです。
ストーリー的な問題点があるとすれば、「自分が漫画家にならなかった世界からの救い」で、漫画家を続けるラストにつながってしまうこと。
SFものだとこれでも良いのですが、このあと最終的にたどり着いた説の「残酷な現実を直視して、立ち向かうラスト」に比べるとかなり弱いラストになってしまう。
矛盾点に見えるとすれば、「背中を見て」が平行世界から来たならば、京本の部屋の窓に、1枚剥がれた描写は必要ない点。
◎ 却下した説③ 別世界軸とも妄想とも受け取れるように作ってるのでは?説
考察の中で混乱しながら見えてきたのが、別世界でも妄想でも共通している部分。
- 京本を襲う狂人を藤野が撃退し、京本は無事
- 藤野と知り合った京本は幸せそうに昔の藤野の漫画を見返して、4コマ漫画を描く
- 幸せそうな京本から「背中を見て」というメッセージをもらい、もう誰もいないけれど、藤野を再起させるものがある部屋へと藤野を誘う
どちらの説で考えても、この3つの重要なところは共通しているのだから、これは意図的にどちらとも取れるように作られた話なのでは?
…と思ったのですが、下の項目で情報を整理しているときにこの説も違うと気づきました。
★ 細かいところまで、しっかりとよく見れば正解は見えていた
別世界線説→妄想説→別世界線説→どっちでも良いのかも知れない説…
これを書きながら読み返していると色々な説になりましたが、はっきりとわからないのは、まだ色々と見落としているからだとわかりました。
読み返している内に注意深くなり、しっかり観察しながら読み直すと、それまでと全く別の完璧に納得できる解釈がようやく見えてきました。
★ 色々な説の矛盾点の考察をしながら読み返しているとあることに気づく
「何の役にも立たないのに…」と昔自分が描いた4コマをやぶったあと。
藤野が廊下で座り込んでいるところに、4コマ漫画「背中を見て」が現れたシーン。
この時、びりびりにやぶったはずの4コマの紙くずがどこにもない。
ここでハッとする。
「藤野はあの4コマをやぶっていない」
やぶったはずなのにちぎれた4コマがドアの前に無い
→実はやぶっていなかった
→「出てこないで!」のコマが京本の部屋の中にも無い
→やぶった時点で、すでに藤野の妄想だった
→この時点で、やぶれたコマから始まる別世界軸説はすっきり消滅
やぶっていないとしたら、「小学校卒業の日に藤野が描いた4コマ」はどうした?
→元の漫画ページに戻したか、あるいはそこら辺に置いた
→または破らずにただ床に落とした
→それが妄想シーンのあと藤野が見た時に「妄想内で京本が描いた漫画」に描き換わっていた?
→破ったコマから「京本が無事な世界は始まる」のでありえない
→「描いても何の役にも立たないのに…」は「描かなければ京本の役に立てた」という妄想の始発点?
→あの妄想の目的は京本を救うこと
「背中を見て」は現実で、それは京本の部屋の窓から風で剥がれたもの
→生前の京本が、”偶然”あの事件に似た場面を、ギャグ漫画として描いていたもの
→偶然あの事件に似ていたが、実際は全然違う漫画だった
→結論で後述
一瞬頭をよぎった、「背中を見て」はやはり妄想説
- 「背中を見て」の作風が、京本よりも藤野の作風に似ている
- 妄想世界で京本が楽しそうに描いた4コマは、内容が全く写っていない
- それを最後に藤野が窓に貼るシーンでも、内容が全く写っていない
不思議に思いましたが、タイトル「背中を見て」の横に「京本」と描いてあるので、生前の京本が描いていた4コマなんでしょう。
あるいは私の結論とはまた違う正解への手がかりかも知れません。
★ 個人的な結論 「どこまでも現実」説
ようやくたどり着いた、と個人的に納得した結論。
京本が描き残した4コマ漫画「背中を見て」は、別世界軸からの応援でもなく、最後まで塗り固められた妄想でもなく、
「もし、あの時こうしていたら…」
と自分を責めて現実逃避の妄想でふさぎこむ藤野へ、現実の京本が残した最後のアシスト。
京本が死んだ現実を受け入れ、過去の”たられば”なんて無意味だと一蹴し、現実の世界へ向き合わせるためのもの。
京本が無事にあの事件を乗り切った別世界か妄想世界で描いて、現実に届いたように見える4コマ漫画「背中を見て」。
それをドア下から受け取った藤野は、勇気が出ずに開けることができなかったドアを開け、部屋に入っていく。
「背中を見て」は、藤野の漫画「シャークキック」を読んだ京本が、友人である藤野と、彼女の描く漫画のキャラクターを重ね合わせて、生前に描いた何気ない4コマ漫画だった。
1コマ目
京本に似た女性が悪漢に襲われる
悪漢「斬ってやる!」(妄想世界で使われた凶器は刺突物)
2コマ目
そこへ”漫画家”藤野が登場、自分の描くキャラクターの技で悪漢を成敗
3コマ目
藤野「怪我はないかね?」
女性「藤野先生じゃないですか!?」
4コマ目
藤野「それじゃ私はこれで」
女性(背中ケガしてますよ!)
12年前、藤野が描いた4コマが”偶然”京本の部屋に入って京本がドアから出てきたように、京本の描き遺した4コマ漫画が”偶然”風に運ばれ、藤野にドアを開けさせた。
この同じ”偶然”が、二人の物語の始発点と終着点だった。
部屋の中には誰もいない。ただ開いた窓から風が吹き込んでいる。窓には、4コマ漫画が何枚か貼ってあり、そこから1枚剥がれた跡がある。
京本は助からなかった。その現実が広がる。
本棚にはシャークキックの単行本。机にはペンと感想ハガキ。
背中になにかを感じ、振り返ると、かつて自分がサインしたはんてんがドアに飾ってあった。
それを見た藤野は、はんてんを着た京本との思い出の中で、自分が漫画を描いていた理由を思い出す。
「漫画なんて自分で描くものじゃない」と言いながら描き続けてきたのは、漫画を描くと京本が嬉しそうに読んでくれて、色々な感情を見せてくれていたから。
京本との思い出に浸りながらシャークキック11巻を読み終わり、ここまで京本が昔と変わらず自分の漫画を楽しく読んでいたこと、自分はその続きを描くのをやめようとしていたことに気づく。
立ち上がると、「藤野歩」と大きく書かれたはんてんが掛かったドアを出て、真っ直ぐに藤野は歩いて行く。もう後ろを振り返らない。
京本からもらった「背中を見て」を、京本がそうしていたように窓に貼り、黙々と漫画を描きはじめる。
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